北海道&東日本パスで稚内を目指す旅(その5)

 今回はJR北海道・東日本全線の普通列車が乗り放題の期間限定きっぷ「北海道&東日本パス」を使った旅。目指すはずばり、北海道稚内にある日本最北端の地、宗谷岬。7日間10,850円(1日あたり1,550円)の格安きっぷで、途中下車も楽しみながら普通列車を乗り継いで宗谷岬を目指すことをこの旅の目的とした。夜行フェリー、廃線が近いローカル線への乗車、隣の駅まで1時間かかる普通列車……。初めての体験も盛りだくさん。
 自身のこれまでの旅行の中で一番長い日程となった、6泊7日で行く「北海道&東日本パスで稚内を目指す旅」を紹介。

 5日目。観光下車もはさみつつ、旭川を目指す。普通列車が1日2本しか走らない石北本線の難関区間も通る。

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【5日目】
知床斜里 7:28発
↓釧網本線4724D普通
網走 8:17着
この日は網走を経由し旭川を目指す。初めに乗車するのは緑発北見行きの列車。下調べで把握はしていたが、網走への通学列車になっていてキハ40系2両で運転される。先客も多く、知床斜里発車時点で約50人が乗車。わずかながら観光客もいた。
知床斜里を発車してほどなく、進行右側にオホーツク海が見えてきた。線路は網走まで海沿いを通る。冬には流氷が接岸し、車窓からその迫力ある絶景を見られることだろう。
各駅から学生が乗車してくる。座席が埋まるほどの混雑ではないが、相席が嫌なのか座らず立っている者も多い。
7:50、原生花園。ちょうど花が見ごろを迎えていたようで、周辺にはカメラマンの姿が見られた。
8:10、網走の一つ手前、桂台。仮乗降場上がりで板張りホームの小さな駅だが、ここが高校の最寄駅のようで学生は全員下車。ワンマン運転のためドアは一番前しか開かないので、乗降に時間がかかっている。しかし時刻表を見てみると、この列車だけ当駅で3分程度停車時間があり、それを見越していることがわかる。
知床斜里から約50分、釧網本線の終点、網走に着いた。ここからは石北本線で旭川を目指すことになるが、乗り継ぎ続けて5日目となると、さすがに旅も単調になってくる。そこで今日はお昼まで「網走監獄」の見学をして気分転換とでもいこう。
      

      
 「博物館網走監獄」は駅からバスで7分。世界でも珍しい、刑務所の博物館だ。網走といえば刑務所がまず出てくるし、網走の刑務所は凶悪犯の行く先というイメージが強かったのだが、この博物館に行ってかなり見方が変わった。刑務所開設当時、「囚人なのだから過酷労働は当然、死んでも監獄費が減るだけだ」といった方針のもと、囚人達は網走と旭川を結ぶ中央道路の工事に従事させられ、過酷な労働環境から多くの犠牲者を出したという。この道は現在でも国道や道道として残っており、北海道の開拓・発展にはこの囚人達の労働が大きく貢献していたとの解説で、この博物館が単にユニークなだけではないことを実感させられたのだった。
網走 11:58発
↓石北本線4660D普通
遠軽 15:06着
博物館でいい勉強をしたところで、網走駅に戻る。
旭川までだいぶ近づいたようにも感じるのだが、あと237km。普通列車で6時間半ほど、特急列車でも3時間半以上もかかる。網走から乗車するのは石北本線遠軽行き。キハ40系2両。

発車前には釧路からの快速しれとこが向かい側に到着。中国人観光客で大賑わいだったが、こちらに乗り換えてきたのは1人だけだった。

乗客13名で網走を発車。早速、網走駅前の駅弁屋で購入した「磯宴(鮭イクラ)」(1200円)で昼ご飯。
12:08、呼人。特急と交換。札幌から5時間半近くかけて走ってきたオホーツク1号で、もうすぐ終点の網走に着くところである。実はこの列車とはまた後で会うことになるのだが。
女満別、美幌では数人が乗降。線路は内陸へ入ってきた。一面田園地帯が広がる。一つの畑の大きさが地元と比べ物にならない。
美幌の先で峠を越えると次第に建物が多くなり、北海道にしては駅間が短くなってきた。
13:07、北見。12人下車。オホーツク管内最大の街で、周りには背の高いビルが多い。ここで26分停車し特急大雪4号に抜かされる。さきほど呼人で交換したオホーツク1号が網走で折り返してきたもので、早くも追いつかれてしまった。
北見発車時点で乗客は9人。西北見で2人、相内で1人下車。西留辺蘂(にしるべしべ)を出ると、かつてSLの難所であった常紋峠を越える。勾配のせいかあまり速度が出ず時速20キロほど。クネクネ曲がりながら山中を走っていると突然現れたのが、旧常紋信号場のスノーシェルターだ。スイッチバック式だったこの信号場はこの年の3月に正式に廃止され、構内のポイントや線路もすでに撤去されていた。

旧信号場と常紋トンネルを過ぎると、下り坂に身を任せるかのように速度が上がった。山間部で特に駅間が長く、西留辺蘂から次の生田原まで27分を要した。

14:46、安国。1人乗車。11分停車し特急と交換する。
網走から約3時間。遠軽に到着。なんだか駅前が、牛舎の前を通った時の、あの独特の臭いに包まれているのはなぜだろう。
ここでは約1時間半の待ち合わせとなる。
      
 待ち時間を使って、駅から見える「瞰望(がんぼう)岩」(標高160m)に行ってみることにした。市街地にそびえ立つ巨大な岩は、昔はアイヌ語で「インカルシ」(見晴らしの良いところの意)と呼ばれ、これが「遠軽」の地名の由来となったという。頂上までは駅から片道徒歩20分程度。頂上には柵が無く、下を覗くとまさに断崖絶壁。市街地を一望できる。
遠軽 16:35発
↓石北本線4620D普通
旭川 20:04着
遠軽からは旭川行きに乗車することとなり、ようやく先が見えてきた気がする。先ほど網走から乗ってきた列車が、時間をおいてそのまま旭川行きに変わっていた。遠軽駅では、昔からの行灯式発車案内が現役。一番下の消灯している行は、1989年に廃止された名寄本線の案内だ。

この先上川までは沿線でも屈指の人口希薄地帯。北見峠を越えるうえ、相次ぐ駅の廃止で駅間が極端に長くなった区間でもある。

乗客は9名。うち学生1名、買い物帰りの老人男性1名、あとは長距離を乗る客と思われる。座席が有り余り、車内は閑散としている。 
16:49、瀬戸瀬。乗降なし。
17:00、丸瀬布(まるせっぷ)。学生と男性の2人が下車。次の白滝までは30分だ。
下白滝信号場では5分停車。1日1往復走る特別快速きたみと交換する。この信号場も2016年までは駅だった。
列車は湧別川に沿って西へ進む。速度はあまり出ない。一方、線路に並行して走る高速道路では、車がスイスイと列車を抜かしていく。ちなみに遠軽をほぼ同時刻に出る高速バスも走っており、そちらの方が1時間以上早く旭川に着いてしまう。この列車に勝ち目はない。
17:30、白滝。1人下車。
次の上川までの区間は、これまで駅が5つも廃止されている。峠を越えるため人の移動が少なく、普通列車は特別快速を含め1日2往復のみ。駅間距離は37.3kmで、在来線では日本一だ。この列車は白滝から上川までなんと61分もかかる。これも北海道のスケールの大きさか。
奥白滝信号場を通過。2001年に駅として廃止されている。周辺に人家はほとんど見当たらない。
奥白滝信号場を過ぎると本格的に峠越えとなる。止まってしまいそうな頼りない速度で、木々が生い茂るだけの山の中をゆっくり進んでいく。
この速度になると車窓に流れる文字もよく読み取れるのだが、先ほどから踏切の名前が「墓地」「石井」「渡辺」などと苦し紛れなものばかり。目印になるものすら無いほど何もないということだ。
18時を回り、峠越えの長いトンネルを抜けると上越信号場に着いた。ここは1975年に駅から信号場に転換している。標高634mに位置し、北海道で最も高いところにある「停車場」である。

ここでは5分停車、特急大雪3号と交換する。呼人で交換し、更に北見で抜かされた特急が、なんと旭川で折り返してもう戻ってきてしまった。1日3回も同じ編成に遭遇できて、いかにこの旅行で時間がかかっているのかよく分かる。

上越信号場を過ぎると順調に下り坂を進む。しかしこの下りが長い。やっと人家が見えてきたのは、旧天幕駅を過ぎてから。やがて周りが街らしくなってきた。

18:31、ようやく上川に着いた。上川管内最初の街で、ここで22分停車。大勢の学生が乗車し急に賑やかになった。まだ19時前だが、上川からの旭川方面普通列車はこれが最終となる。

ここから旭川まで15駅あるが、うち2駅は通過し1時間強で走る。遠軽を出てから2時間でまだ4駅しか進んでいないし、白滝からひと駅1時間もかかり感覚がおかしくなってしまったが、この先は常識的な所要時間である。
上川から近場の駅では下車は無く、愛別でやっと1人下車してからは当麻、桜岡、東旭川と各駅で乗降があった。南永山まで来ると見慣れたチェーン店の看板が次々現れ、街の光りも明るくなってきた。新旭川から高架線に上がると、終点の旭川に到着だ。

旭川は上川管内の中心地にして北海道第二の都市。久しぶりに都会の駅に来たので人が多いのだろうなと思っていたのだが、予想とは裏腹に随分閑散としていた。