ご当地駅メロディー資料館
駅メロをつくる人たち

 全国にたくさんあるご当地駅メロディー。既存の曲が見事に十数秒の駅メロとしてアレンジされていたり、その駅や土地をイメージさせるオリジナルメロディーで利用者を楽しませている。これらのメロディー、いったい誰がつくっているのだろうか。

 実は、世の中にはご当地駅メロに限らず、様々な駅メロの制作を仕事にする会社や人物が存在する。しかしこれだけ駅メロが増えたのにもかかわらず、普段世間から注目されることはほとんど無い。そこでここでは、駅メロをつくる会社や人物にスポットを当てて、彼らがどんな仕事をしているのかを紹介する。各々で異なる駅メロの特徴やこだわりなどにも注目したい。

 通常の駅メロディーの場合、鉄道会社に音響設備を納入している会社が、自社の商品(音響設備)にメロディーを組み込むために音楽制作会社へ制作を依頼し、更に制作会社が専属の作曲家などに依頼する。中には音響設備会社が自らメロディーを制作していることもある。

 これに対しご当地駅メロの場合、採用を望む地元の自治体や団体、鉄道会社が直接、音楽制作会社や作曲家などに制作を依頼するのが一般的になっている。制作元を大別すると@音楽制作会社、A地元出身といった縁のある作曲家、B自ら制作、C原曲そのまま、の4つがある。


@音楽制作会社
一般の駅メロと同じ、最もポピュラーなパターン。

●スイッチ公式サイト

 1996年設立、事務所は東京都。代表取締役は小川雄貴氏(2021年から小川洋一氏)。全国でも唯一、駅メロ制作をメインの事業としている会社。2013年現在7名の作曲家と契約。JR東日本をはじめ、東京メトロ、京浜急行電鉄などの駅メロを制作しており、その実績からご当地駅メロの制作も数多く受け持っている。

◎塩塚 博(しおづか ひろし)氏(公式ブログ
 1956年神奈川県生まれ。1986年、CM音楽制作会社に入社。翌年、作曲家・ギタリストとして独立。CM音楽やBGM制作を中心に活動し、ニッポン放送ではラジオニュースや交通情報ジングルをはじめ多数の番組の音楽を受け持った。郷ひろみ、稲垣潤一、岡本夏生への楽曲提供の実績も持つ。

 1993年、音楽制作会社の東洋メディアリンクスからの依頼で発車メロディー「JR-SHシリーズ」を制作。JR東日本の東京駅や中野駅など多くの駅で使われている。2007年からスイッチと契約し駅メロ制作活動の幅を広げ、同年に初めてご当地駅メロ「Vamos Ardija」(JR大宮駅)「KEEP ON RISING」(JR浦和駅)を制作。現在は京浜急行電鉄や東京メトロなどのメロディーも制作し、作品の採用数は300駅に上る。2013年には初の駅メロ関連書籍「駅メロ!THE BEST」を執筆。メディアへの出演も多い。

 塩塚氏のメロディーの特徴として、自身で「ゴージャスオルゴール」と名付けた音色を用いていること。耳障りにならないよう、ハープやチャイム系の音を組み合わせている。音数が少なくシンプルな曲構成であり、これは騒音の多い駅構内で細かな音色をたくさん鳴らしても聞き取れないためという考えから。また「JR-SHシリーズ」では転調(途中で曲のキーを変える)や偽終止(落ち着いたように曲が終わらない)といった音楽テクニックを取り入れることで、曲に緊張感や刺激をつけて乗車を促す効果を持たせている。

○駅メロディー制作実績(代表例)
・JR東日本発車メロディー「JR-SHシリーズ」、「森の妖精」「ムーンストーン」他
・JR三鷹駅「めだかの学校」、浦和駅「KEEP ON RISING」、上越妙高駅「夏は来ぬ」等、ご当地駅メロディー多数
・東京メトロ丸ノ内線・有楽町線等発車メロディー
・山陽電鉄接近・発車メロディー
・京急電鉄各駅入線メロディー


◎福嶋 尚哉(ふくしま なおや)氏
 1963年長野県生まれ。大学在学中にCM音楽制作をはじめる。1990年、著作権フリー音楽の制作販売会社・サウンドファクトリーにサウンドクリエイターとして参加。舞台音楽をはじめ、CM音楽やジングルなどを手掛ける。同社で活動中に制作した楽曲がJR東日本の発車メロディーに採用され、品川駅や柏駅などで使われている。現在はスイッチと契約し発車メロディーの制作を行っており、JR東日本や東京メトロ、西武鉄道などで彼の作品が使われている。

 福嶋氏のメロディーの特徴としては、コンピューターミュージックを駆使し、様々な音色やリズムを組み合わせていること。サウンドクリエイターとしての経験が活きているといえる。なお最近の作品では、鉄琴調の音色を使うことが多い。ご当地駅メロについては、「阿波踊り」(JR南越谷駅)では笛や太鼓の音を取り入れたり、「天城越え」(伊豆急河津駅)では琴の音色や効果音で演歌の雰囲気を再現するなど、原曲のイメージを崩さないアレンジが特徴。

○駅メロディー制作実績(代表例)
・JR東日本発車メロディー「SFシリーズ」(一部)、「旅の予感」「キッズステーション」他
・JR熊谷駅「熊谷市歌」、長野駅「信濃の国」、伊豆急河津駅「天城越え」等、ご当地駅メロディー多数
・東京メトロ丸ノ内線・有楽町線・南北線等発車メロディー

●櫻井音楽工房公式サイト
 1999年設立、事務所は東京都。代表は櫻井隆仁氏。2015年現在13組のアーティストが所属しており、「g.shack records」のブランドで音楽制作や著作権管理業務などを行う。業務内容の一つとして櫻井氏が手掛ける発車メロディーがあるが、最近は新たな作品の発表はない。

◎櫻井 隆仁(さくらい たかひと)氏(公式ブログ
 1970年沖縄県生まれ。作曲家、沖縄の新民族楽器、四線・六線の演奏家。レコード会社・テイチク(現・テイチクエンタテインメント)のディレクターだった1997年、京都市営地下鉄東西線の発車メロディーを制作。同年にはJR東日本の発車メロディーも制作し、新宿駅で初めて採用。曲のレパートリーが豊富で、同駅では当時14ホーム全てで異なる曲が使われた。数秒の尺でありながらも様々な音色を用い、それでいて注意喚起の意味合いも盛り込んだ音楽性の高いメロディーは、当時の駅メロ界に新たな風を吹かせた。現在でも渋谷、池袋、立川など多くの駅で使われており、首都圏JRの駅メロではメジャーなシリーズのひとつである。1999年に独立し櫻井音楽工房を設立。2003年に「鉄腕アトム」(JR高田馬場駅、新座駅)を制作。2004年には同氏の作品を収録した「JR東日本駅発車メロディーオリジナル音源集」が発売された。

 櫻井氏のメロディーの特徴は、実用性を考え抜いた作品になっていること。JRで採用されているメロディーはどの曲も4小節、7〜10秒の尺でつくられている。これは実際に駅で電車の停車時間や、乗り降りにかかる時間を測定して導き出された長さ。そして音色には「水琴窟(日本庭園の装飾の一つで、地中に埋めた瓶などに水滴を落として音を発生させるもの)」をベースにしたものを用い、曲を終止形(曲の始めと同じ和音で終わる)にすることで人々を落ち着かせ、駆け込み乗車の防止を狙っている。

○駅メロディー制作実績
・JR東日本発車メロディー「新たな季節」「すすきの高原」「スプリングボックス」他
・JR高田馬場駅・新座駅発車メロディー「鉄腕アトム」
・京都市営地下鉄東西線発車メロディー(京都をイメージした和風のオリジナル曲)

●音楽館公式サイト

 1985年設立、本社は東京都。代表は向谷実氏。1995年、家庭用電車運転シミュレーションゲーム「Train Simulator」を開発。クオリティの高い映像や音声が人気を博し同社の主力事業になる。現在ではJR各社や東急電鉄等へ訓練用シミュレーター、鉄道博物館(さいたま市)等へ展示用シミュレーターをも納品するなど実績を上げている。音楽制作事業としては、2004年に九州新幹線の発車メロディーと車内チャイムを手掛けたのを機に、京阪電鉄、阪神電鉄、東急電鉄など多くの鉄道会社から制作を依頼されるようになった。

◎向谷 実(むかいや みのる)氏(公式ツイッター
 1956年東京都生まれ。1977年、フュージョンバンド「カシオペア」にキーボーディストとして加入。1980年代にはフュージョン音楽界の第一線で活躍した。バンドは2006年に活動を休止し、その後脱退。一方で幼少のころから熱狂的な鉄道マニアだったことで知られ、かねてから自分で発車メロディーをつくることが夢だったという。

 2004年、九州新幹線の運転シミュレーションゲームを手掛けたのが縁で、同線の発車メロディーと車内チャイムを制作。これを機にJR九州、阪神電鉄、東急電鉄などで鉄道関連の音楽を多数手掛けるようになる。京阪電鉄では、各駅の発車メロディーをつなぐと一つの曲になるという斬新な発想を取り入れて注目を集めるなど、これまでにない駅メロを生み出している。

 向谷氏のメロディーの特徴として、曲が流れる場面を想定していること。混雑する通勤電車では3拍子の曲でリズムよくドアへ向かってもらうように、新幹線では十数秒の尺を使い旅の始まりを感じさせる曲調にしたり、地下駅や速度を出す区間、上り坂が待ち構える駅といったシチュエーションも表現している。転調や変拍子(変則的なリズム)を取り入れて、心理的にその場に留まりづらくすることで乗車を促す効果をつけているほか、独自の考えからあえて曲を終止させていない。乗車する時に曲が終わってしまっては、これから出かけようとしている人の気分を損ねてしまうからだという。「発車するから早く乗って」ではなく、「発車するからさあ乗ろう」と思わせるメロディーをつくるのが向谷氏のこだわりだ。

○駅メロディー制作実績(代表例)
・九州新幹線各駅発車メロディー
・阪神電鉄接近・発車メロディー「線路は続くよどこまでも」他
・東京メトロ東西線発車メロディー
・京阪電鉄発車メロディー(大阪や京都をイメージしたメロディー)
・東急渋谷駅発車メロディー「Departing from New Shibuya Terminal」

●エピキュラス公式サイト
 1995年設立、本社は東京都。代表取締役社長は福原光一氏。音楽事業大手ヤマハの傘下であるヤマハミュージックエンタテインメントのグループ会社。コンサートやイベントの企画・運営をはじめ、音響・音楽制作も行い、テレビ番組、CM、イベントBGMなど幅広い分野で実績を持つ。わずかながら駅メロディーも手掛ける。

◎鈴木 ヤスヨシ(すずき やすよし)氏(公式ブログ
 1981年埼玉県生まれ。4歳よりピアノと作曲を学び、大学在学中にCM・映像音楽の制作を始める。現在では劇団四季や宝塚歌劇団出身俳優をはじめとするアーティストのコンサートでピアニストを務めるなど、幅広く音楽活動を行う。

 2009年に東急大井町線の通過電車入線メロディーと発車ベルを制作。2012年には東京メトロ銀座線溜池山王駅の発車メロディー(溜池山王をイメージしたオリジナル曲)を手掛けた。2013年からカプリチオ・ミュージックに所属する。

●サウンドプロセスデザイン公式サイト
 1983年設立、本社は東京都。代表取締役は田中宗隆氏。博物館・美術館といった公共施設や観光・商業施設、交通機関におけるサイン音・BGMの制作を行う。いわゆる環境音楽が得意分野。イベントのプロデュースや映像作品の納入実績もある。鉄道関係では、1991年に手掛けた営団地下鉄(現・東京メトロ)南北線の接近・発車メロディーが代表的事例。

○駅メロディー制作実績
・営団地下鉄(現・東京メトロ)茅場町駅発車ベル
・営団地下鉄(現・東京メトロ)南北線接近・発車メロディー(水などをイメージしたオリジナル曲、作曲家・吉村弘氏が制作)
・阪急京都線長岡天神駅サイン音(古都の落ち着いたたたずまいと竹林をイメージしたオリジナル曲)
・阪急梅田駅発車メロディー(行先地をイメージしたオリジナル曲、作曲家・鎌田浩宮氏が制作)

●SOUND PLANT(サウンドプラント)
 1992年設立の個人事務所。

◎西谷 喜久(にしたに よしひさ)氏
 三重県生まれ。サウンドデザイナー。中学・高校時代は吹奏楽部で、バンド活動にも熱中。大阪芸術大学音楽学科入学を機に創作活動を本格化。卒業後は音響演出関連会社に入社し、1992年独立。環境音楽やサイン音を得意とし「心地よい音づくり」がモットー。「ぷっちょ」「サラテクト」「たこ焼き割烹たこ昌」のCMソングやサウンドロゴなどを手掛ける。

 関西圏を中心に鉄道関連のサイン音制作にも数多く携わり、1994年にはJR京都、関西空港両駅の接近・入線・発車メロディーを、1997年にはJR神戸線の接近・入線メロディーを制作。近畿日本鉄道では特急列車の一部の車内放送チャイムや、2012年の「縁を結いて」以降に採用された特急列車発車メロディーをすべて手掛けている。

○駅メロディー制作実績(代表例)
・JR京都、関西空港両駅 接近・入線・発車メロディー(特急「はるか」や京都をイメージしたオリジナル曲)
・JR神戸線接近・入線メロディー(神戸や海をイメージしたオリジナル曲)
・JR大阪環状線発車メロディー(各駅にちなんだ曲)
・近鉄特急列車発車メロディー「縁を結いて」「ドナウ川の漣」「ひかりの鐘」他


A地元ゆかりの音楽家
ご当地駅メロの採用とともに、制作を地元出身の有名アーティストへ依頼することも多く、話題性がある。

◎タケカワ ユキヒデ氏(公式サイト
 1952年埼玉県生まれ。シンガーソングライター。人気バンド「ゴダイゴ」のボーカルとして活躍。2003年、自身で作曲した地元さいたま市の歌「希望(ゆめ)のまち」の発車メロディーのアレンジを担当し、JR大宮駅や浦和駅などで使用。

◎中田 ヤスタカ(なかた やすたか)氏(「CAPSULE」公式サイト
 1980年石川県生まれ。音楽プロデューサー。音楽ユニット「CAPSULE」として活動するほか、きゃりーぱみゅぱみゅやPerfumeといった人気アーティストの楽曲を手掛ける注目の音楽作家。2015年にJR北陸新幹線金沢駅の発車メロディー(金沢や新幹線をイメージしたオリジナル曲)を制作。

◎須藤 晃(すどう あきら)氏(公式サイト
 1952年富山県生まれ。音楽プロデューサー。尾崎豊をはじめ、玉置浩二や浜田省吾など大物歌手の楽曲を手掛けた。2015年にJR北陸新幹線富山駅の発車メロディー(「富山の水とガラス」をテーマにしたオリジナル曲)を制作。

◎伊勢 正三(いせ しょうぞう)氏(公式サイト
 1951年大分県生まれ。シンガーソングライター。フォークグループ「かぐや姫」のメンバーとして、「神田川」「赤ちょうちん」などのヒット曲で活躍。自身で作詞・作曲した「なごり雪」が、2009年から地元津久見市のJR津久見駅で発着メロディーに使われており、メロディーのアレンジと演奏を夫人とともに担当。

◎笠松 泰洋(かさまつ やすひろ)氏(公式ブログ
 1960年福井県生まれ。作曲家。「世界のニナガワ」とも呼ばれる演出家・蜷川幸雄氏の舞台音楽を手掛けている。2004年、えちぜん鉄道福井駅の発車メロディー(沿線をイメージしたオリジナル曲)を制作。


B自ら制作
要望側が演奏を録音して採用したところもある。

◆JR大曲駅「秋田おばこ節」
 地元の大仙市民謡愛好会が演奏したものを録音し採用。

◆JR武蔵小金井駅「さくら」(4番線)
 地元のハンドベルグループ「トライアングル」の演奏を録音し採用。

◆JR豊田駅「たき火」
 音楽が得意な日野市職員が試しに制作したところ、そのまま採用。当初は外部委託するつもりだったため、制作費が浮き経費削減に。

◆JR高岡駅、新高岡駅「高岡銅器のお鈴」
 地元名産の高岡銅器でつくった「お鈴」で演奏したオリジナル曲。近隣出身の雅楽奏者・太田豊氏が演奏したものを録音し採用。


C原曲そのまま
中にはCD音源などを編集してそのまま使っているところも。

◆JR戸田公園駅他「ああ わが戸田市」
 前奏部をそのまま使用。

◆埼玉高速鉄道浦和美園駅「Keep On Rising」
 サビ部をそのまま歌付きで使用。

◆長野電鉄湯田中駅「美わしの志賀高原」
 1曲まるごと歌付きで使用。

◆JR松山駅「春や昔〜ふるさとの春〜」
 カラオケ版の前奏から1番までをそのまま使用。

※会社・人物は順不同で、ご当地駅メロディーに関連するものを掲載。情報は2015年時点。

ご当地駅メロディー資料館トップへ戻る