さて、首都圏や地方でも拡大し全国区となろうとしている「ご当地駅メロディー」であるが、果たしてその評判はどうなのか非常に気になるところである。せっかくご当地駅メロディーにしても、利用者から不満の声が出ては仕方がない。駅メロディーを「ご当地」とすることに利用者はどう思っているのか?
2007年10月、東京急行電鉄が大変興味深いアンケートを行った。それは、東急が利用者から直接の声を聞いてより利用しやすい東急線にしようと毎年募集している「東急電車モニター」会員に行った定期アンケート、「インターネット調査2007年上期」のなかのその名も「発車ベルとご当地ソング」で、発車ベルをご当地曲にすることについてどう思うかを問うものであった。
なお、アンケート対象者は普段東急線を利用している人たちである。ちなみに東急線の駅では発車ベルを使用し、またワンマン運転を行っている目黒線では乗降促進音として発車メロディーを使用している。
○東急電鉄公式サイト
○東急電車モニター活動報告
根本的な問題として、ご当地曲にすることが良いか悪いかを問う率直な質問。400人いるモニター会員のうち284人(71.0%)から回答があった。
上記の調査結果を見ると、全体では「良いこと」と答えた人は52.8%、「必要ない」は34.5%、「どちらともいえない」は12.7%だった。比率としては「良いこと」が多いが、「必要ない」という意見も目立っている。特に、年代別で見ると、30代以下の若年層は「良いこと」が60.8%と好評だが、逆に50代以上の高年層は「必要ない」が48.2%と、「良いこと」の意見を上回る結果となっており、あまり好感が持てない人が多いようである。
また、アンケート回答者が利用している路線別での集計結果もある。東横線利用者は半々といった感じだが、田園都市線利用者は「良いこと」がやや優勢、その他路線利用者については「良いこと」が64.5%とかなりの支持がある。
欲を言うと「どうして良いのか、必要ないのか」という理由も聞いていただけるとそれぞれの意見により説得力が出たと思う。
東急の駅がこうなったらいいな的な利用者の思い。第1位は「桜新町駅で『サザエさん』」が20人。やっぱり世田谷桜新町といったらサザエさんというイメージあるのか、考えることは皆同じということだ。これが関係しているのか、上記8のアンケートで田園都市線利用者はご当地曲には好感を示しており、実現を望む人は多いのかもしれない。
更に第2位に「横浜駅で『ブルーライトヨコハマ』」が11人、第3位に「蒲田駅で『蒲田行進曲』」などが8人と続いた。横浜駅ではこの他「赤い靴」「よこはま・たそがれ」といった曲もランクインしている。日吉にキャンパスのある慶応義塾の応援歌「若き血」が入っているのも面白い。
こんなアンケートするということは、東急も少しはその気があったということだろうか?
このアンケート集計結果からわかることは言うと、まず原点に返って「何のための発車ベルか?」ということを考えてみようということだろう。最近次々と登場する「ご当地駅メロディー」ではあるが、本来のベル・メロディーの目的である「利用者への合図」ということを忘れてはいけない。別ページ「ご当地駅メロディーとは?」で説明した「CM」がすべてではないことに注意すべきだ。
「発車ベルそのものが不要では?」という時代もあった。「けたたましく鳴る発車ベルがうるさい」という世間の風潮から、JR千葉駅では1988年に発車ベルを廃止、その結果苦情が止んだほかに駆け込み乗車が少なくなったという思わぬ効果も出たといわれている。この結果から発車ベルを廃止する取り組みは広がっていき、それと同時に「やさしい音」である発車メロディーが広まっていったという経緯がある。
千葉駅は発車ベル廃止から20年以上が経った。首都圏の駅では「ベル」からの置き換えにより「メロディー」が鳴るのが当たり前になっている中で、県のターミナル駅がこのように駅員の案内放送だけでやりくりしているというのは珍しく、普段からの利用者はまだしも、何かしら鳴るのが当然と思い込んでいる外部からの利用者を惑わすこともある。
またこれはあくまで私の推測だが、高年層にあまり評判が良くないことについては、昔から聞き慣れ、「メロディー」ではなくはっきりとした音の「ベル」のほうが聞き取りやすい、ということではないだろうか。
今後、利用者への合図でもあり町の宣伝でもある、目的のバランスが取れた「ご当地駅メロディー」となっていくことを願いたい。
(※追記)東急では、2012年12月から新丸子駅と武蔵小杉駅で地元プロサッカーチーム・川崎フロンターレの応援歌を、2013年3月には渋谷駅で東京メトロ副都心線との相互直通運転開始を記念して制作したオリジナル曲を発車メロディーに採用した。
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