JR広島支社入線メロディーの研究

 本記事では、JR西日本の中でも比較的早い時期から入線メロディーを取り入れた広島支社のそれについて、これまであまり触れられてこなかった経緯や傾向などを調査した。

 ※「JR西日本広島支社管内」とは、山陽本線・呉線三原、福塩線下川辺、芸備線比婆山、山陰本線戸田小浜、山口線本俣賀の各駅以西から山陽本線下関駅までのエリアをいう。
 ※本記事で「入線メロディー」とは、列車の接近を知らせる放送の後(放送が無い場合は、列車が駅に近づいてから)、到着まで流れる曲のことをいう。なお「接近メロディー」は、列車の接近を知らせる放送の冒頭に流れる曲のことをいう。
 ※当サイトでは通常、汎用物の駅メロについては扱っていないため自前の音声等が用意できないことから、必要に応じて外部の動画サイトなどへのリンクで対応している(外部へのリンクは[外部]と記している)。
 ※曲名が無い、または不明なものについては便宜的に、『発車ベル使用状況』で使用されている<近郊地域○番>といった整理番号、もしくは本記事でつけた[メロディーA]などの名称で示すこととする。
 ※本記事の作成にあたり関係会社への取材等は行っておらず、個人趣味の範囲で調査したものである。

 

1.メロディーの導入

 JR西日本広島支社管内で初めて入線メロディーが採用されたのは1993年8月6日、横川駅の山陽本線ホームである。サービス向上の一環として試験的に導入した。当時はJR東日本が駅の発車ベルのメロディー化を進めていたころで、JR西日本でも北陸の富山、金沢、福井の各駅で郷土色を出したメロディーを導入していたが、関西・中国地方では初めてであった。「発車ベル」が主流だったJR東日本に対しJR西日本は「入線ベル」が主流で、加えて主要駅や編成の長い列車では発車ベルも鳴らしていたため、ベルが騒音や苦情の原因となっていたという。

 横川駅では従来の入線ベルをメロディーに置き換えた。広島市内の音大生がシンセサイザーで作ったオリジナル曲で、「心地よく、アップテンポで楽しいもの」をコンセプトに上り線はゆったり、下り線は軽快な曲にしたという。導入にあたっては山手線の駅の放送システムを参考にしたといい、これが後述する「せせらぎ」「春」などJR東日本の発車メロディーと同じ曲が使われることとなった要因と考えられる。同ホームでは2002年10月頃まで先の2曲が使われていたが、もっとも、新聞の記述から当初はオリジナル曲(<広島1〜4番>のこと?)だったものと思われる。
 
 この試験が好評を得たため、翌年3月15日のダイヤ改正を機に山陽本線西条〜岩国間で本格導入を決定。26日時点で広島以外の駅の変更が既に終わり、最後に残った広島駅は29日に変更された。曲は上下線別に西条〜広島間では<広島4番><広島2番>、広島〜岩国間では「せせらぎ」「春」、海田市駅の呉線ホームは<広島3番>、横川駅の可部線ホームは「雲を友として」の計6曲が使われることとなった。

 駅員操作だった富山駅などに対し、「列車の発着にあわせて自動的に流れる入線メロディー」は同社では広島支社が初だったと思われ、90年代後半以降に関西圏や岡山支社管内を中心に導入が進む接近・入線メロディーの礎となった。なお当初は利用者の反応を見ながら、更に発車ベルの電子音化も考える方針だったが、これは今になっても実現していない。しかし結果として「接近・入線時はメロディー」「発車時はベル」というすみ分けを生んだといえ、実際に同社全体では発車メロディーよりも接近・入線メロディーの使用駅のほうが圧倒的に多い。

2.特徴

 ・入線ベルをメロディーに置き換えた経緯から、多くの駅では当初、特に注意喚起の放送はなく列車が駅に近づくといきなりメロディーが流れ始め、列車が止まりかけるとメロディーも鳴りやむ仕組みだった。現在はメロディーの前に放送が流れるようになっている
 ・駅ごとに曲が違うJR東日本の発車メロディーとは異なり、基本的に線区ごとに同じ曲で統一している
 ・上下線で曲は分けている。待避線は同じホームの向かい側の曲に準ずる(島ごとに1曲。設備の仕様?近年この制約はない模様)
 ・メロディーは大きく分けてオリジナル曲、音響設備メーカーが納入した汎用曲、ご当地の3つがある
 ・2011年以降は放送設備すらなかった閑散線区などでもメロディー採用が進んだ。一方、山陽本線、呉線、可部線では2種類の曲に統一した

3.メロディーの種類

 
オリジナル曲のイメージ。青い海、白い砂浜、太陽のような末期色
曲名 主な使用区間・駅 備考
使用中 過去に使用
(1)オリジナル
<広島4番> 山陽・呉・可部線上り、
広島4番
天神川・前空・新広(接近) 接近は短縮版
かつて音色違いもあり
<広島2番> 山陽・呉・可部線下り、
広島2・7・9番
前空・新広上り 音色違いもあり
<広島3番> 広島3・8番 呉線上り、大町上り  
<広島1番> 広島1・5番 呉線下り、横川(可部線)、
大町・前空下り
原曲は「砂の鏡」
かつて音色違いもあり
(2)汎用
せせらぎ[外部]   山陽本線広島〜下関上り ユニペックス
[外部]   山陽本線広島〜下関下り ユニペックス
草原[外部]   呉線広〜三原の一部途中駅上り ユニペックス
高原[外部]   呉線広〜三原の一部途中駅下り ユニペックス
雲を友として[外部]   横川(可部線)、厚狭(美祢線) ユニペックス
<近郊地域15番>[外部]   岩国(山陽本線) カンノ製作所
<近郊地域16番>[外部]   岩国(岩徳線) カンノ製作所
<小野田1番>[外部] 防府(接近) 山陽本線宇部〜幡生の一部 カンノ製作所?
オルゴール04 芸備線、福塩線   著作権フリー音楽
[米子支社標準] 山口 下関 カンノ製作所
米子支社管内の標準
[メロディーA] 安登、宇部新川、琴芝、
川西、山口(接近)
  カンノ製作所
[メロディーB] 山陰本線、山口線   カンノ製作所
[メロディーC] 下関    
(3)ご当地   
かもめの水兵さん 三原   作詞者の出身地
防府音頭(防府おどり) 防府   ご当地音頭
宇宙戦艦ヤマト   戦艦大和建造の地
それ行けカープ 由宇(到着) 由宇 広島カープ球団歌
※広島支社管内における大まかな使用状況を記載している
駅ごとの細かな違いや、音色違い、放送設備に起因する音程違いなどは考慮していない
※入線メロディーのみ記載。曲が同じものを除き接近メロディーや到着メロディーは記載していない
※本表は2020年5月現在

(1)オリジナル

 1994年の本格導入時から現在まで使われている、管内限定のオリジナル曲。いずれも15秒程度の尺で、瀬戸内の青い海や輝く砂浜、まぶしい太陽(上の写真のような感じ?)を連想させるさわやかな印象のメロディー。筆者は当初、この曲群を「音大生がつくった」のだと解釈していたが、本記事の執筆にあたりあらためて当時の新聞記事を見返したところ、「横川駅での試験時の曲を音大生がつくった」と取れる内容であった。ただ<広島1〜4番>は「心地よく、アップテンポで楽しいもの」というコンセプトにも合致する曲調である。「試験時のメロディー」=<広島1〜4番>のどれかという可能性は十分考えられるが必ずしもそうとは言えず、試験期間にだけ使われたメロディーがあった可能性もある。もし筆者が社内の人間なら、せっかく依頼して作ってもらった曲を半年程度で取りやめるというのは申し訳なく感じるが、大学生が作ったにしては完成度が高いとも感じるし、本格導入時にわざわざ「せせらぎ」「春」に変えた点も疑問が残る。

 最大の謎は、<広島1番>のメロディーがソロユニット「姫神」の曲「砂の鏡」そのままな点。本曲は1980年代にNHKで放送された紀行番組『ぐるっと海道3万キロ』のBGMのひとつである。同じように(2)ではオカリナ奏者・宗次郎の「雲を友として」が使われていたことから、初め当時はこのようなヒーリングミュージックをアレンジするのが流行っていたのかとも思ったが、もしこれも音大生がつくったというのならパクリという可能性も……。一方で1994年の本格導入時はまだ使われていなかったとみられ、「アップテンポで楽しい」曲調の他の3曲とは一線を画すことから、後から別に追加された可能性も否めない。

 2000年に開業した前空駅では<広島1,2,4番>の別バージョンが使われた。従来のものと比べるとメインパートの音色が異なり、ベースやパーカッションパートが強いのが特徴で、本格導入から6年が経過したところでの突然の登場も不思議であった。2004年には福川などでも採用されたがいずれも現在は消滅。現在は西条、岩国、新山口など詳細型自動放送設備稼働駅で<広島2番>の音色違いが使われているのみである。

(2)汎用

 放送設備メーカーがセットで納入した曲。当初は主に、JR東日本の発車メロディー用につくられた曲を流用。「春」「せせらぎ」「雲を友として」などユニペックス系の曲は山手線など都心部で、<近郊地域15番><近郊地域16番>のカンノ製作所系の曲は甲府駅などで既に使われていた。<小野田1番>はかつてJR九州の西屋敷駅や筑前大分駅でも使用。メロディー導入にあたって山手線の駅の放送システムを参考にしたということから、放送設備の納入業者が同じだったことがこの結果を生んだと考えられる。

 2010年代から導入が進む閑散線区ではカンノ製作所系が主流。同社の設備を使っていると思われるJR中央本線茅野駅やJRきのくに線、神戸の六甲ライナーなどで類似の曲が流れている。

(3)ご当地

 地域にちなんだ曲を使ったもの。管内では2004年に三原駅で「かもめの水兵さん」が採用されたのが最初。当初は5月と8月の期間限定だったが、現在は通年で使われている。2011年にはこれまで入線メロディーが無かった防府駅で「防府音頭(防府おどり)」、2013年には呉駅で「宇宙戦艦ヤマト」を採用した。

 なおこれ以降、外部などからの要望を受けた「ご当地駅メロ」については、入線メロディーが鳴り終わり、列車が止まった後に流れる「到着メロディー」として採用されている(徳山、由宇、安芸長束)。由宇駅の「それ行けカープ」は当初こそ入線メロディーであったがのちに到着メロディーに変更され、入線メロディーは従来曲に戻された。

 これはJR西日本が2015年度から、安全面に配慮し入線メロディーへのご当地駅メロの採用を取りやめた(注)のが関係しているとみられ、曲を統一することで乗客に「これは列車が入ってくる合図だから危険だ」という認識を持ってもらうことを狙っていると思われる。

注…京都府綾部市議会平成29年9月定例会会議録より。なお会議録によると「既にメロディーが変更されている駅は継続するが、今後曲の変更は認めない」「発車メロディーの変更は新規でも認める」という。実際、2015年4月に七尾線で入線メロディーが変更されて以降、JR西日本で列車の入線を知らせる目的で流す「ご当地駅メロ」を新規に採用した駅はない。唯一2017年に城崎温泉駅で入線メロディーが別の曲に変更されているが、これは企画段階から同社が関与していたことや、全社標準の入線メロディーを併用しているため実現したと考えられる。

4.これまでの主な変化

年月日 出来事 備考及び参考資料(リンク先は外部)
1993年8月6日 横川の山陽本線ホームで試験的にメロディー使用開始。広島市内の音大生がシンセサイザーで作ったオリジナル曲。上りはゆったり、下りは軽快な曲調(<広島1〜4番>のこと?) ・中国新聞1993年9月14日夕刊
・同紙1994年3月26日
1994年3月26日までに 15日のダイヤ改正を機に、山陽本線西条〜岩国(広島除く)で使用開始。広島以東はオリジナル曲、以西はユニペックス汎用曲で分け、上下線別に前者は<広島4番><広島2番>、後者は「せせらぎ」「春」の組み合わせ。海田市の呉線ホームは<広島3番>、横川の可部線ホームは「雲を友として」となる ・中国新聞1994年3月26日
動画1(1994年、海田市5番(呉線下り)で<広島3番>が聞こえる)
1994年3月29日 広島で使用開始。島ごとに曲が異なり1番が「春」(以西下り)、2・3番が「せせらぎ」(以西上り)、4・5番が<広島2番>(以東下り)、7〜9番が<広島4番>(以東上り)。国鉄時代からあった自動放送設備とは別に作動していた模様 動画2(1994年10月、2番で「せせらぎ」)
動画3(1994〜95年頃、3:22〜で8番?の<広島4番>、5:53〜で<広島2番>、9:27〜で<広島2番>と3番?の「せせらぎ」が聞こえる)
究極の広島駅(1995年、1番で「春」、2番で「せせらぎ」、5番で<広島2番>)
これ以降 区間を山陽本線と呉線全線に拡大。山陽本線は広島を境に従来の組み合わせが標準。以西でホームが複数ある徳山や下関では<広島2番><広島4番>も併用。岩国は<近郊15番><近郊16番>、宇部や小野田などは<小野田1番>、厚狭の美祢線ホームは「雲を友として」に。一部ではベルも残る。
呉線は広以西で<広島3番><広島1番>、広以東の一部途中駅では「草原」「高原」の組み合わせ
動画4(1996年、下関で「せせらぎ」)
動画5(1996年、徳山で「春」)
動画6(1996年8月、まだ厚狭はベル)
動画7(1997年8月、岩国で<近郊15,16番>)
動画8(1998年3月、まだ厚狭はベル?)

1994年8月20日 可部線に大町開業。この時から<広島3番><広島1番>の組み合わせ?  
1996年頃 広島の自動放送設備改修。メロディーが入れ替わり、接近放送の後流れるように。1・5番は<広島1番>、2・7番は<広島2番>、3・8番は<広島3番>、4・9番は<広島4番> 動画9(1997年3月、新しい放送と5:53〜でかすかに<広島4番>が聞こえる)
動画10(1998年8月、<広島1番>が聞こえる)
動画11(1999年11月、0:08〜で広島5番の<広島1番>、8:28〜で横川の「雲を友として」が聞こえる)
動画12(1999年11〜12月頃、2番で<広島2番>)
1999年 岩国の山陽本線ホームが「せせらぎ」「春」に変更  
2000年3月11日 山陽本線に前空開業。接近<広島4番>の短縮版+放送+入線<広島2番><広島1番>音色違いの組み合わせ。接近メロディーと放送がつく形態はのちに開業する新広や天神川も同様だった Sound of Station(前空駅の項)
オリジナル曲の音色違いが出たのは前空が初。2002年10月には周辺と同じ曲に変更されるも、音色違いは貫いた
2002年3月23日 呉線に新広開業。前空と同じ組み合わせだが通常音色  
2002年10月 5日のダイヤ改正で「広島シティネットワーク」結成。山陽本線岩国以東を<広島4番><広島2番>、呉線広以西を<広島3番><広島1番>の組み合わせに統一。横川の可部線ホームは<広島1番>に変更 この時点で山陽本線岩国以東が<広島4番><広島2番>、以西が「せせらぎ」「春」、呉線広以東の一部途中駅が「草原」「高原」、以西が<広島3番><広島1番>の組み合わせが標準となる
2004年 三原、西条、新山口など主要駅で自動放送設備が稼働し順次拡大。これらの駅では接近放送の後、<広島4番><広島2番>の組み合わせだが再生速度がおよそ0.9倍で、後者は音色違い。三原は5月から期間限定で「かもめの水兵さん」、のちに通年に 動画13
2004年3〜4月 福川、富海、大道で使用開始。<広島4番><広島2番>の音色違い 大道は1年程度で通常音色に変更
2008年3月15日 山陰本線に梶栗郷台地開業。山陽本線以外では初めて<広島4番><広島2番>の組み合わせ  
2008年3月頃 呉線広以東のメロディー使用駅が、以西と同じ組み合わせに変更  
2011年1月頃 芸備線と福塩線で「オルゴール04」使用開始 この頃、JR西日本では安全対策のため全社的に接近放送類を以下のように改修した。
・注意喚起の放送を追加
・下がる位置の表現を「黄色い点字ブロック」に改める
・統一したメロディーを使用
・入線メロディーを列車が停止するまで流し続ける

筆者、2011年12月中旬に柳井、幡生などで「春」「せせらぎ」<小野田1番>を最後に聞く
2011年3月14日 防府で「防府音頭(防府おどり)」使用開始
2011年から12年3月にかけて 山陽本線・呉線は<広島4番><広島2番>の組み合わせに統一し、冒頭に接近放送を追加。可部線の横川と大町も同様で、以降全線で使用開始
2013年7月1日 呉が「宇宙戦艦ヤマト」に変更  
2014年3月 山口で[米子支社標準]使用開始(接近は[メロディーA])  
2016年2月頃 安登、川西、琴芝、宇部新川で[メロディーA]使用開始  
2017年3月から順次 山口線宮野以南、山陰本線小串以西ほか主要駅で[メロディーB]使用開始 山口は従来のまま
2017年5月20日 由宇が「それ行けカープ」に変更 ただし10月頃元に戻し、列車が止まった後に流れる到着メロディーとなる
2017年9月10日 広島の自動放送設備改修、9番が<広島2番>に変更  
2019年3月10日 下関が[米子支社標準]に変更  
2019年9月10日頃 下関が[メロディーC]に再変更  
※駅ごとの細かな違いについては考慮していない

ここにない情報(特に90年代、オリジナル曲について)や当時の記憶をお持ちの方、「この曲私が作った」という方、ご連絡ください

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