普通列車だけで下関まで行く旅、ただし裏道で……(その3)

 久しぶりに普通列車だけを使った旅行をしてみようと思いこの旅を計画。目的地は本州最西端の街・山口県下関。ただ東海道・山陽本線の最短ルートは、以前の青春18きっぷで鹿児島まで行く旅で乗車済み。そこで今回は中央・関西本線を経由して名古屋・大阪へ向かったり、乗車経験のない中国地方のローカル線を使うなど、マイナー、というかマニアックな「裏道ルート」で下関を目指すことにした。
 総行程は4泊5日、片道乗車券一枚だけを買って、普通列車だけで下関まで行ってきた旅の記録である。

 4日目は日本海側に出て、いよいよ終着の下関へ。

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【4日目】
  引き続き三江線で日本海側へ。宿の主人のご厚意で、駅まで車で送っていただいた。三江線の廃止決定で、これからもっと人が多くなってくるだろうと主人談。廃止後の宿の動向も気になったが、聞くと補助金が下りたとかで近く建て替えを考えているらしい。今回の旅の一番の記憶に残る宿だった。
潮 7:31発
↓三江線422D普通
江津 9:31着
駅には先客が1人いた。自転車を持っており、どうも同じ大和荘に泊まっていた人らしい。
静寂につつまれていた駅に、遠くからディーゼル音が聞こえてきた。車両は昨日と同じ「三江線神楽号」。昨日乗った列車は浜原行きだったので、折り返し三次まで戻ったのが再びやって来たようだ。

乗車すると、先客は何と12人。旅行客もいたが地元の方が多そう。続いて沢谷、浜原で1,2名乗降し、左下写真の粕淵では6名が乗車。その後も竹までの各駅から1,2名ずつ次々と乗ってきた。駅に着くたびに挨拶を交わしている。会話を聞くと何かの集まりのようで、皆、江津まで乗車するらしい。
団体の会話は絶えない。男性の一人が「汽車は初めて乗った」と言っていた。一方で「眺めが良くていい」「でも来年の今頃はもうなくなってるから……」という女性も。
8:22、石見川本に到着。川本町の中心部で駅の周りはそれなりに開けている。世界遺産・石見銀山へ向かうバスも出ているのだが、この列車が着く1分前に出てしまうなど、まともに接続が図られておらず、三江線は完全に当てにされてない模様だ。
石見川本を過ぎると、江の川の堤防が線路よりも高くなってきた。線路は所々で川を渡るため、線路が堤防を横切る箇所には水門が設けられている。
川幅も広くなり、千金を過ぎると遠くに工場群が見えてきた。海が近づいてきたようだ。
二十数人の客を乗せ三江線の終点、江津(ごうつ)に到着。この列車は37分停車し山陰本線の浜田まで直通する。自身も浜田方面へ向かうのだが、浜田から先の接続が無いためここで後続を待つこととする。他の客もほとんどがここで下車。残っていたのは2人だけだった。
江津市は、山陰で最も人口が少ない市。東京から交通機関を利用しての移動時間が最も多くかかることから、「東京から一番遠い街」とも言われている。
市の中心部ながら駅前の一等地にコンビニなどは無く、個人の商店が元気にやっているところを見ると、大手企業の手が届きにくい、ある意味平和な場所なのかもしれない。
  さて、次の列車まで1時間25分。駅でじっとしているのも飽きるので、駅舎内にあった周辺図を見て海まで歩いてみることにした。駅から約15分、学校や住宅の合間を縫って海岸線に到着。中国地方の山間を横断しながら、太平洋側から日本海側までやってきた。人影は無く、波の音しかしない。
江津 10:56発
↓山陰本線3453D
快速アクアライナー
益田 12:13着
駅に戻る。江津からは山陰本線に乗り換え、今日中に下関まで到達する計画。駅に入ってきたのは快速アクアライナーでキハ126系2両。ローカル線の高速走行を実現させた、山陰エリアオリジナルの車両で、特急の代走を担った経験もあるというから驚き。
数駅を飛ばし25分で浜田に到着。ここで半数は下車。以降は各駅に停まり、さらに約50分で終点の益田に着いた。山口線が分岐している。地方でよくみる典型的な地平駅舎だが、構内には薬局や、駅ではあまり見かけないCD・楽器ショップが入居している。
いい天気になり半袖で十分なくらいだ。次の列車は約1時間15分後。ここで昼食とした。

頭の上で轟音がする。見上げると飛行機が低空飛行していた。萩・石見空港が駅から車で10分程度のところにある。
調べるとこの空港、一日の定期便は羽田からの2便しかなく、この飛行機はその1便だったらしい。
 
益田 13:27発
↓山陰本線1571D普通
長門市 15:17着
益田からは長門市行きに乗車。車両はキハ40系になった。この先は優等列車の運行は無く、山陰本線で最も閑散としている区間となる。
乗客はおよそ20人。旅行かばんやお土産品を持った人が多い。平均年齢が高く若い人は見られなかった。
益田までの高速走行はどこへやら。日本一の路線距離を持つ山陰本線であろうが、容赦なく「必殺徐行」も復活した。
山口県に入り14:38、東萩。萩といえば、城下町として人気の観光地。旅行客が多く乗降した。
長門市駅 15:22発
↓サンデン交通 準急
仙崎駅前 15:28着
終点の長門市からはすぐ下関方面への接続があったが、少し時間に余裕があるのでここで下車し、近くの仙崎に寄ってみることにした。
仙崎へは山陰本線の支線も通っているが、本数が少ない。丁度良く、仙崎を経由するバスが駅前からあった。このバス、下関から来たやって来た便で、終点の青海島(大泊)まで約2時間40分かけて走っている。
  1時間後の列車に乗らなければならないので、仙崎駅から歩いて5分のところにある「金子みすゞ記念館」へ。みずゞは仙崎の生まれ。「みんなちがって、みんないい」や、ACジャパンのCMで一躍有名になった「こだまでしょうか、いいえ誰でも」も彼女の詩。
ちなみに安倍晋三首相もここ長門が地盤。館内には首相が書いた「みんなちがって……」が飾ってあった。何が言いたい?

16:20、仙崎駅に戻る。駅舎は町並みに溶け込むような雰囲気のあるつくりだが、無人駅で構内は静か。
 
仙崎 16:27発
↓山陰本線1632D普通
長門市 16:31着
長門市方向から1両の列車がやって来た。この支線は長門市から仙崎までの1駅間だけを結び、運行は一日6往復。乗車する列車は長門市からそのまま美祢線厚狭行きになる。乗車は4人だった。
4分で長門市まで戻り、再び本線で下関方面へ。3分接続の小串行きに乗車する。
長門市 16:34発
↓山陰本線973D普通
小串 17:49着
長門市発車時点では20人くらい乗車していたが、人丸までに大半が下車してしまい、阿川発車時点で2人になってしまった。
線路は海岸線沿いにはべったりつかず、内陸に入ったり海に出たりを繰り返す。相変わらず所々で徐行に遭遇するが、こういう景色がいいところでやるのは気分がいい。
陽もだいぶ傾いてきた。
終点の小串で下関行きに乗り換え。下関からは40分の距離にあり、ここはもう下関都市圏だ。
写真右が小串まで乗車した列車。左の奥1両は滝部行きで、手前2両が切り離され折り返し下関行きとなる。
小串 17:53発
↓山陰本線887D普通
下関 18:35着
下関が近いこともあって乗客の数は徐々に増えてきた。安岡を過ぎると線路の周りは住宅街。幡生で山陽本線と合流し、ついに下関に到着。
裏道ルートに普通列車だけを使い、4日かけた旅の終着点。
  以前下関駅に下車したのは、青春18きっぷで旅した5年半前の2011年12月だったが、その間に駅はきれいに生まれ変わり、フグのはりぼてやカメラで映すだけの手抜き発車案内は姿を消していた。
下関市の人口は県庁所在地の山口市をも上回り県内一。関門海峡を渡った対岸の北九州の門司や小倉にも近く、韓国・釜山や中国・青島へのフェリーも発着している国際商業都市だ。

この日の楽しみは下関名物のフグやクジラ料理。ホテル近くの居酒屋で一杯やって、ゆっくり床に就いた。
 

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